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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)6343号 判決

神戸市〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

大深忠延

斎藤英樹

大阪市〈以下省略〉

被告

フジチュー株式会社

右代表者代表取締役

大阪府豊中市〈以下省略〉

Y1

滋賀県甲賀郡〈以下省略〉

Y2

石川県石川郡〈以下省略〉

Y3

右被告ら訴訟代理人弁護士

富永義政

大久保宏明

酒井清夫

主文

一  被告フジチュー株式会社及び被告Y2は、原告に対し、連帯して、金四三二万九一八〇円及びこれに対する平成五年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告フジチュー株式会社及び被告Y2に対するその余の請求並びに被告Y1及び被告Y3に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告、被告フジチュー株式会社及び被告Y2に生じた費用の五分の四と被告Y1及び被告Y3に生じた費用の全部を原告の負担とし、その余を被告フジチュー株式会社及び被告Y2の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告らは、原告に対し、連帯して、金三〇九〇万二七八九円及びこれに対する平成五年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、商品先物取引により損失を被った原告が、商品取引員及びその外務員である被告らに対し、商品先物取引への勧誘及び同取引自体の違法性を理由として、不法行為に基づく損害賠償として、同取引によって被った損失相当額等(二八一〇万二七八九円と弁護士費用二八〇万円の合計額)の賠償を請求するものである。

二  事実経過等

1  原告は、訴外●●●社に勤務する男性であり、被告フジチュー株式会社(以下「被告会社」という。)を通じて商品先物取引を行っていた当時、●●●の支社長を勤めていた。

被告会社は、一般投資家からの商品先物取引の受託を業とする商品取引員であり、被告Y1(以下「被告Y1」という。)、被告Y2(以下「被告Y2」という。)及び被告Y3(以下「被告Y3」という。)はいずれも、原告が被告会社を通じて商品先物取引を行っていた当時、被告会社金沢支店の外務員であった(被告Y1は支店長、被告Y2は係長、被告Y3は営業第一課副主任の地位にあった。)。(争いなし)

2  被告Y3は、平成二年一二月初めころ、原告の勤務先に先物取引案内のダイレクトメールを送付し、同月半ばころ、原告に勧誘の電話をかけた。また、被告Y3は、平成三年二月には原告の勤務先を訪問して名刺を交付し、同年三月五日及び四月三〇日にも原告の勤務先を訪れて、チャート図等の資料を示しながら、市況について説明した。そして、各訪問の間には、市場の動向についての電話を数回かけていた。(乙一二の2、3、被告Y3)

3  平成三年五月二八日、被告Y3が原告の勤務先を訪問し、「商品先物取引委託のガイド」と題するパンフレット(乙一〇)及び受託契約準則(乙一一)等を交付し、原告が約諾書(乙一)に署名捺印した。そして、以後平成五年二月までの間に、別紙(一)No.1ないし4記載のとおりの商品先物取引が行われた。(争いなし。以下「本件取引」という。)

4  本件取引(但し、別紙(一)No.4記載の取引を除く。)に関する原告と被告会社の間における金員のやり取りは、別紙(二)No.1、2記載のとおりであり、原告は、本件取引により合計二八一〇万二七八九円の損失を被った(争いなし)。

5  担当者交替経過(原告本人、被告Y3、被告Y2、被告Y1)

(一) 被告Y3(平成三年五月から同年七月まで)

(1) 金

別紙(一)No.1の番号1ないし4の取引

(2) 白金

別紙(一)No.2の番号1の取引

(二) 被告Y2(平成三年七月から同四年一〇月まで)

(1) 金

別紙(一)No.1、2の番号5ないし24の取引

(2) 白金

別紙(一)No.2の2ないし9の取引

(3) 東京綿糸

別紙(一)No.3の番号1ないし5の取引

(4) 関門とうもろこし

別紙(一)No.4の番号1の取引

(三) 被告Y1(平成四年一〇月から同五年二月まで)

(1) 金

別紙(一)No.2の番号25ないし28の取引

(2) パラジウム

別紙(一)No.3の番号1ないし5の取引

(3) 東京ゴム

別紙(一)No.3の番号1ないし5の取引

6  平成三年一二月二六日、原告は、本件取引による損失が増大し(合計約一四五〇万円)、資金が涸渇したことを理由に、一旦本件取引を手仕舞いした(争いなし。以下、ここまでの取引を「本件第一取引」という。)。

7  平成四年一月、原告は、本件第一取引で生じた損失を取り戻したいと思い、同月一七日に金一〇枚の売りを建てたのを皮切りとして、本件取引を再開した(以下、再開後の取引を「本件第二取引」という。)。しかし、その後も損失は増大し(第二取引による損失合計額は約一三六〇万円に上った。)、資金調達の目処がつかなくなったことから、原告は、平成五年二月一六日、本件取引をすべて手仕舞いした。(原告本人)

三  争点

本件取引及びその勧誘の違法性の有無

1  適合性原則違反について

(原告の主張)

原告は、本件取引開始当時、生命保険会社の支社長の地位にあり、その職務は繁忙を極めていた上に、それまで商品先物取引の経験は皆無であった。また、当時原告の三人の子供らはそれぞれ、短大生、高校三年生及び小学生であり、教育費に多くを要する時期であったため、原告には投機取引に充てるべき余裕資金は全くなかった。

(被告らの主張)

原告の学歴及び職歴からして、商品先物取引が危険性を伴う相場取引であることを認識する能力がなかったはずはない。

2  無差別勧誘及び取引関係を悪用した勧誘について

(原告の主張)

被告Y3は、原告に対し、「●●●の紹介で、●●●グループの管理職の方々に利用して頂いております。現在株式市況は不透明ですが、金の取引は安全です。フジチュー株式会社は●●●から全面的に金の販売を任されていますから、絶対損をさせることはありません。安心して私にお任せ下さい。」と勧誘したため、●●●グループに勤務する原告としては、右勧誘を断ることができなかった。これは取引関係を悪用した勧誘である。

3  説明義務違反及び断定的判断の提供について

(原告の主張)

被告Y3は、本件取引開始前の勧誘において、金の相場が底値にあること、したがって必ず金が値上がりすると強調した。また、被告Y3が原告にパンフレットや受託契約準則を交付したのは契約当日(平成三年五月二八日)が初めてであり、しかも、単に「読んでおいて下さい。」と言って交付しただけであり、パンフレットや右準則に基づく先物取引の具体的な仕組みや危険性の説明はされなかった。

4  新規委託者保護義務違反について

(原告の主張)

(一) 受託業務指導基準は、商品取引員に顧客カードを整備させ、顧客の資力・投資意向などの調査を行うものとし、不適格者の勧誘を禁止するとともに、新規委託者(商品先物取引の経験を有しない者)について三か月間の習熟期間(保護育成期間)を設け、その間の新規委託者からの取引受託を二〇枚以内に制限している。そして、被告会社の定める受託業務管理規則も、右新規委託者保護のための規定を設けている。

(二) 原告は、右新規委託者に該当するものであるが、被告Y3は、顧客の適格性を判断するにあたり重要な資料となる原告の顧客カード作成につき、不動産所有の有無や余裕資金額、年収額等について全く原告に質問せず、また、資金調達方法についても確認しなかった。そして、被告Y3は、原告の年収額を一二〇〇万円程度、預貯金額も二〇〇〇万円程度と推測で記載し、その虚偽記載に基づいて過大な取引勧誘が継続された。

5  難平取引及び増し建玉の勧誘

(原告の主張)

被告Y2は、平成三年七月から同年一二月まで、金・白金の相場が下落し、追加証拠金がかかる中、「今が底値である。」「必ず値上がりする。」「追証がかからない。」などと申し向け、買建玉を積極的に勧誘した。また同じく、金相場が下落し、追加証拠金がかかる中、平成四年三月から同年八月まで、買建玉の拡大を積極的に勧誘し、買建玉の値洗い損が拡大していたのに、原告に対し、何ら取引縮小を助言しなかった。

6  両建、因果玉の放置について

(原告の主張)

被告Y2は、平成四年九月ころ、金及び綿糸の相場が下落する中で、綿糸の一部両建を勧誘し、また、金の売建玉を建て落ちさせて、無意味な反復売買(因果玉の放置)を行った。

両建は、相場が上昇しても下落しても損益は変わらず、一旦手仕舞いして損切りするのに比べて証拠金が二倍必要になり、また委託手数料も二倍負担する必要があるなど、顧客にとって何一つ有利な点はなく、商品取引員において取引を拡大させる意味しかない。

また、相場が下落し、買建玉に損失が拡大する中で、売建玉を建て落ちさせる取引は、表面上は利益が出るが、他方の買建玉に損失が拡大している点で、顧客の損得勘定を誤らせる意味しかない。

7  無敷について

(原告の主張)

別紙(一)記載の、金の番号6ないし11、14、18、19、24及び28の建玉、白金の番号5ないし9の建玉、パラジウムの番号1及び2の建玉、東京綿糸の番号2及び3の建玉、東京ゴムの番号2及び3の建玉は、いずれも委託証拠金の入金がなされないままに建てられたものである。委託証拠金は、商品取引員の債権担保である一方、資力が十分ではなく、商品取引の経験及び知識に乏しい一般大衆が安易に委託するのを心理的に抑制し、過当取引を抑制する機能を有するものである。

四  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

第三争点に対する判断

一  争点1(適合性原則違反)について

1  証拠(甲一一、一九、原告本人)によると以下の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和四一年a大学政治経済学部政治学科を卒業し、●●●に入社した。そして入社以来一貫して営業畑を歩み、各地の営業所長を歴任した後、平成二年三月、富山支社長に就任した。

(二) 原告が被告会社と本件取引を開始した平成三年五月当時、原告の家族構成は、妻と子供三人(短大生、高校三年生、小学生)であり、原告の月収(手取額)は約三五万円であった。また、当時原告は、北陸銀行に借入限度額一〇〇〇万円の与信枠を有していた。

2  右の各事実に照らすと、原告が、平成三年五月当時、先物取引及び株式取引の経験を有していなかったとしても、資力及び理解力の点において、商品先物取引に適さない者であると認めることはできない。原告は、仕事が多忙であることを適合性原則違反の事由として主張するが、仕事が多忙であるか否かは、先物取引の危険性を認識する能力があるか否か、あるいは、その危険に堪えうる資力を有しているか否か、という問題とは別個の問題である。

よって、適合性違反を理由とする原告の主張は理由がない。

二  本件取引開始に当たっての被告Y3の勧誘行為(争点2、3)について

1  争点2(無差別勧誘及び取引関係を悪用した勧誘)について

(一) 無差別勧誘が違法とされるのは、それが先物取引に適さない者に対してなされた場合であるから、前記一で説示したとおり、適合性違反が認められない本件においては、無差別勧誘を理由とする不法行為の主張は理由がない。

(二) 原告は、被告Y3が取引関係を悪用して勧誘したと主張するところ、原告及び被告Y3の各本人尋問の結果によれば、同被告が被告会社は三井物産の貴金属取引の代理店である(このこと自体は真実である)などと述べて原告を勧誘した事実が認められるけれども、それ以上に原告主張のような違法の評価を受けるべき言辞を用いたことまでを認めるに足りる証拠は存在しない。甲一一(原告の陳述書)中には右原告の主張に沿う記載があるが、被告Y3本人尋問の結果に照らしてたやすく採用することができない。

したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。

2  争点3(説明義務違反及び断定的判断の提供)について

前掲甲一一及び原告本人尋問の結果中には原告の主張に沿う陳述ないし供述部分が存在する。

しかしながら、既に第二の二で認定した事実と証拠(甲一二ないし一四、乙一、一〇、一一、一二の2、3、被告Y3及び原告の各供述)によれば、

(一) 被告Y3は、平成二年一二月ころから電話や訪問により数回にわたって勧誘した後、本件取引が開始された平成三年五月二八日、原告と面談し、「商品先物取引委託のガイド」と題するパンフレット(乙一〇)と受託契約準則(危険開示告知書を含む。乙一一)を交付し、更に、金相場の動向を説明するための資料として、外電情報及び金相場の値動きを示すグラフ等(甲一二ないし一四)を交付したこと、

(二) 右受託契約準則中の危険開示告知書(一一頁)は、右準則三条の規定に基づくものであり、「商品の先物取引の危険性について」という表題の下に、①先物取引においては、総取引金額に比較して少額の委託証拠金をもって取引するため、多額の利益となることがある反面、多額の損失となる危険性もあること、②相場の変動に応じ、当初預託した委託証拠金では足りなくなり、追加証拠金の納入が必要となることがあること、③取引所の市場管理機能により、値幅制限又は建て玉制限が行われた場合には、顧客の指示に基づく取引の執行ができないことがあることの三点が指摘されていること、なお、右の危険告知書は、前記パンフレット(乙一〇)の二枚目表(表紙を開けた箇所)にもその全文が掲載されていること、

(三) 原告が右五月二八日に署名捺印した約諾書(乙一)には、「先物取引の危険性を了知した上で・・・私の判断と責任において売買取引を行うことを承諾した」との文言が記載されていること、

(四) 原告は、本件第一取引を手仕舞いするに際し、被告Y2らに対し、同被告の相場の見通しについて苦情を述べたに過ぎず、「元本保証と思っていた」とか「絶対儲かるといったではないか」などといった苦情は述べなかったこと、

以上の事実が認められ、これらの事実と前記一1(一)で認定した原告の学歴及び職歴等を併せ考えると、前掲の原告の陳述ないし供述部分はたやすく信用することはできないし、そのほかには原告の主張事実を認めるに足りる証拠は見当たらない。

したがって、説明義務違反及び断定的判断の提供を理由とする原告の主張も失当である。

三  本件第一取引(争点4、5)について

1  争いのない事実と証拠(甲七ないし九、一一、乙一〇、一二の1ないし5、一三ないし一五、一六の1ないし14、一七の1ないし19、原告、被告Y2及び被告Y3の各供述)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 全国商品取引所連合会が策定した受託業務指導基準(甲七ないし九)及びこれを受けて被告会社が定めている受託業務管理規則(乙一三)によると、商品取引員は、顧客カードを整備し、顧客の資力・投資意向等の調査を行うものとされ、不適格者の勧誘が禁止されているとともに、新規委託者(商品先物取引の経験を有しない者)について三か月間の習熟期間(保護育成期間)が設けられ、その間の新規委託者からの取引受託を二〇枚以内に制限するものとされている。

(二) いわゆる難平取引というのは、買建玉をした後値段が下がった場合に、更に買い玉を増やして買いの平均値段を下げるという取引方法をいい(売建玉の場合は逆になる。)、相場が反転すると予測した場合に採られる方策の一つであるが、予想に反して更に値段が下がった場合(売建玉のときは上がった場合)には損失が大きくなる点で、リスクの大きい取引方法とされる。

(三) 被告Y3は、本件取引開始前、原告の「顧客カード」(乙一二の1)を作成したが、その際、原告にその資産や収入状況を確認することなく、自らの推測に基づいて、「年収約一二〇〇万円」「預貯金約二〇〇〇万円」「有価証券約一〇〇〇株」などと真実に合致しない記載をした。そして、これを引き継いだ被告Y2も、その後右の事項について原告に確認したことはなかった。

(四) 被告Y3は、平成三年五月二八日から同年七月八日までの間に、四回にわたって金の取引を受託したが(別紙(一)No.1の番号1ないし4)、これらはいずれも一〇枚単位の取引であり、かつ、一個の取引につき手仕舞いした後に次の取引に移るというものであった。

被告Y3は、平成三年七月一五日に金の四回目の取引を手仕舞いした後、原告に対して白金の取引を勧め、同月二五日、白金一〇枚の買建玉の受託をした(別紙(一)No.2の白金の番号1)。

(五) その後、被告Y3の上司(当時営業係長)であった被告Y2が原告の主たる担当者となり、同年一二月二六日に手仕舞いするまでの間に、白金三回(別紙(一)No.2の白金の番号2ないし4)、金五回(別紙(一)No.1の番号5ないし9)の取引(いずれも買建玉)を受託した。

(六) ところで、右の白金の買建玉のうち同年八月二〇日までの三口(別紙(一)No.2の白金の番号1ないし3。被告Y3受託分を含めて合計四〇枚)は、本件取引開始後三か月以内の取引受託であるところ、これらはいずれも同年一二月二六日に手仕舞いされるまで保持されていたのであるから、前記(一)に記載した新規委託者保護の趣旨に反するということになる。

被告Y2らは、右の事態に対処するため、一〇〇枚以上の建玉を要請する旨の「建玉要請書」(乙一五。同年八月二〇日付け)を原告から徴し、また、これを受けて同日付けの受託調書(乙一四)が作成されているが、右建玉要請書は、八月二〇日の二三枚の買い玉が建てられた後の同月二二日になってから作成されたものであり、それも、被告Y2において、原告に対して「二〇枚以上になったらこういうものを書いてもらう。」と述べただけで、それ以上に詳しい説明はなされなかった。また、右受託調書は、原告の右申請を一〇〇枚の限度で適当と判定する趣旨の内部文書であり、被告Y1が責任者として決裁しているが、その判定資料の一部とされた原告の資産収入状況欄には、前記顧客カード(乙一二の1)に記載されたデータがそのまま使用されている。

(七) 被告Y2は、前記(五)記載のように、白金が底値に達していると見て三回にわたってその買建玉を原告に勧めたが、予想に反して白金の値段は反転せず、損失が累積して追加証拠金の必要が生じた。そこで、被告Y2は、同年一〇月二〇日ころから、再度金の買建玉を勧誘し、同年一二月二四日までに五回にわたり合計七〇枚の買い玉を建てたが、これも白金と同様下落を続ける一方であり、損失が増大した。なお、右金の建玉のうちの四回(番号6ないし9)については、委託証拠金が納付される前に建玉が行われている(いわゆる無敷)。

(八) 原告は、これ以上資金繰りが続かなくなり、同年一二月二六日、一旦全部の建玉を手仕舞いして損失を確定させることを申し出た。そこで、同日付けをもってすべての建玉が手仕舞いされ、損失が確定した。

(九) 右に前後して、被告会社金沢支店の統括責任者であるBが、同月二五日と二八日の二度にわたって原告と面談し(被告Y3及びY2も同伴した。)、原告及びその妻に対し、先物取引の仕組みや本件第一取引の現状について説明し、不足金の支払を求めた。これに対し、原告は、被告Y2に苦情を述べたが、請求された不足金の全額を支払った。

2  右に認定した事実に基づいて検討するに、本件第一取引のうち被告Y3のみが担当していた間の取引の勧誘については、特段違法というべき点は見当たらないが、被告Y2が関与するようになった平成三年七月二九日以降の取引の勧誘については、違法の評価を免れないというべきである。すなわち、

(一) 既に、前記1(六)で指摘したように、原告の建玉数は、本件取引が開始されて三か月に満たない平成三年八月二〇日の時点で合計四〇枚に達しており、1(一)記載の新規委託者保護の趣旨に反するものであるところ、被告Y2及び被告会社は、これに対する一応の措置は講じてはいるものの、これらは形式的で不十分なものといわざるを得ない。

(二) 前記1(七)で認定したところからも明らかなように、被告Y2が勧誘した取引は、1(二)記載の難平取引に該当するものというべきところ、同取引の勧誘は、それ自体で直ちに違法なものとはいえないにしても、他の要素との兼合い次第では違法性を基礎づける要因ともなり得るといえる。

(三) 以上に加えて、①被告Y2が関与するようになってから建玉の数が短期間に異常に累積し、平成三年一二月二六日の手仕舞い前には、白金四〇枚、金七〇枚の合計一一〇枚に上っていたこと、②前記1(七)で認定したように、金取引の中には委託証拠金の納付前に建玉が行われたものがあること、③原告は、商品先物取引の経験が浅く、その仕組みについての知識も十分ではなかったと思われることをも併せ考えると、被告Y2は、自らの営業成績を上げることを優先する余り、新規委託者保護の趣旨に反し(むしろ原告の無知に乗じて)、原告をリスクの高い難平取引に誘引したものと推認することができるのであり、このような勧誘行為は、取引通念上の許容される限度を逸脱した違法な行為といわざるを得ない。

3  そうすると、別紙(一)No.1の番号5ないし9の取引及び同No.2の白金の番号2ないし4の取引の勧誘について、被告Y2の不法行為を肯定することができるところ、右の不法行為は、同被告が被告会社の事業を執行するについてなしたものであることは明らかである。なお、被告Y3及び同Y1も、本件第一取引に若干は関与しているけれども、被告Y2との共同不法行為を肯認するに足りる証拠はない。

四  本件第二取引(争点5、6、7)について

1  原告及び被告Y2の各供述によれば、平成四年一月一七日から本件第二取引が開始されたのは、原告の方から被告Y2に対して電話をしたのがきっかけであることが認められ、原告自身、本件第一取引の損失を少しでも取り戻すべくもう一度被告Y2を信用してみる気になったと述べている。

右の事実に前記三1で認定した事実(本件第一取引の経過)をも併せ考えると、原告は、本件第一取引の経験から、商品先物取引の基本的な仕組みを知り、十分にその危険性を認識しながら、あえて本件第二取引に臨んだものというべきであるから、被告側において相当違法性の強い勧誘行為を行ったなどの事実が認められない限り、本件第二取引についての被告らの不法行為を肯認することはできないというべきである。

2  原告は、右の違法性の根拠として、平成四年三月から八月までの間における金の難平取引(争点5)、同年九月ころの綿糸の両建及び因果玉の放置(争点6)、金ほか多くの銘柄における無敷(委託証拠金納付前の建玉。争点7)を主張する。

しかしながら、右1で説示したところに照らすと、仮にこれらの原告主張事実が全部認められたとしても、これだけでは本件第二取引の勧誘が違法であったということはできず、そのほかには右の違法性を基礎づける事情を認めるに足りる証拠は見当たらない。

五  損害額について

以上認定説示したところによると、被告会社及び被告Y2は、別紙(一)No.1の金の番号5ないし9の取引及び同No.2の白金の番号2ないし4の取引による損失合計一三〇九万七二六八円について連帯して損害賠償責任を負うことになる。

しかしながら、前記二、三で認定説示した事実関係等によれば、原告は、パンフレット等により商品先物取引の危険性を知ることができたはずであるのにもかかわらず、自らの資産状況を顧みず、漫然と被告Y2の勧誘に応じていたため、右の損失の拡大を招いたことは明らかであるから、本件の損害賠償額を定めるについては、原告の過失割合を七割と認めるのが相当である。

なお、弁護士費用は、四〇万円を相当と認める。

第四結論

よって、原告の請求は、被告会社及び被告Y2に対して、金四三二万九一八〇円及びこれに対する不法行為の後である平成五年二月一七日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 遠山廣直 裁判官 山本正道)

〈以下省略〉

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